不均衡進化論が物理学で説明できる?

  先日、古澤氏のセミナーを聴く機会に恵まれた。その中で、生物学と物理学の関係についても論じていた。不均衡進化論に関する最初の論文を書いた時、レフリーから「不均衡進化論は、熱力学第二法則(エントロピーの法則)に反する。」というコメントがあって、それが理由で受理されるまで日数を要したと述べていた。
  筑摩書房の「不均衡進化論」にも同じことが書かれていたように思うが、レフリーは一体何を考えて「熱力学第二法則(エントロピーの法則)に反する」と言ったのか、私は理解に苦しんだ。生物学を物理学で論じることは全く問題ないと思うが、不均衡進化論を熱力学第二法則で論じるほどに、生物学を熱力学で説明する研究が進んでいるかという問題がある。そもそも、生命活動とは、外部からエネルギーを取り込むことで、一見すると熱力学第二法則に反するように見える現象を引き起こしている代表的なものではないだろうか。ただエントロピーが増大するだけならば、生物の材料となる有機物があったとしても、それが、形の整った生物になるなどということは、あり得ないことになってしまう。世の中に生物が存在するのは、なんらかのメカニズムが働いて、一見すると熱力学第二法則に反するように見える現象を引き起こすことができるからだろう。生命活動が存在すると系の熱の収支が複雑になって理解が難しくなるだろうが、広く全体を見れば、辻褄が合って、熱力学第一法則、第二法則にも反していないという結果に落ち着くのだろうと私は信じている。その方面の専門家に教えていただきたいものである。

 古澤氏は、世の中の大事なことは物理学の研究で全て分かっていて、実は生物学者の出番は無いのではないかという議論があることにも触れていた。昔から良く言われている事ではあるが、化学は、物理学と数学で説明でき、生物学は、化学、物理学、数学で説明できるはずであるから、自然科学の現象は、究極的には、最も上流に位置する学問の物理学でほとんど全て説明できるというのは正しいことのように思う。学問が発展し続ければ、生物学、化学、物理学、数学など、学問を分ける必要も無い位に全てを統一的に理解することも可能になるかもしれない。しかし、はたして人類がそこまで繁栄し続けるのだろうか? 不均衡進化論が示唆するように、大切な情報は保存されて途切れることなく将来に引き継がれ、必要な変化は大きく取り込まれ、どのような環境の変化にも対応して人類が進化するとしても、どこまで生き延びることが出来るのかについて未知の部分が多すぎるように思う。現在の地球上でも、毎年多くの種が絶滅していると聞く。どのような精巧な進化の機構があったとしても、絶滅するときには絶滅してしまうのが生物というものかもしれない。人類が生き延びる方法があるとしたら、物理学が全ての現象を解明できる時代が来るのを待つことなく、生物学のレベルで進化の研究を進め、人類という種が途絶えること無く生き延びる方法を見つけることではないだろうか。人類が生物である以上、生物学者の責任は重大である。

                                                        沼田 文男


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古澤氏の横顔

リンク  

The role of disparity-mutagenesis model on tumor development
with special reference to increased mutation rate

がん細胞の異常に高い変異率と不均衡変異モデルの関係を論じています。

不均衡進化論の総説 

OJGen20110300008_80573945.pdf へのリンク
DNA二重らせんの生物学的意義に関する古澤氏の考え方です。

筑摩書房 不均衡進化論 古澤 滿    

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